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オフィシャルインタビュー公開!

セカンドバッカー

セカンドバッカーが初の全国流通盤『言えなかったことばっかりだった。』をリリースする。このインタビューではこうへい(Vo/Gt)とまさみ(Dr)のルーツ、ふたりの出会い、出会いからバンド始動までの3年弱の期間、こうへいが目指す“ロックバンド”のかたちや今作について語ってもらった。大切な人をひたむきに愛し、「許し」を提唱するセカンドバッカーの哲学は、どこから生まれたものなのだろうか。


――おふたりは2020年に、共通の知人であるイベント会社の社長を介して知り合ったそうですね。

こうへい(Vo/Gt) ずっとバンドをやりたいなと思っていて、まさみくんを紹介してもらいました。まさみくんがSNSに上げていた動画を観たときに「こう撮りたいな」「こういう動画が面白いんじゃないかな」というまさみくんならではの工夫が詰まってるなと思ったんですよね。そういうものをコンスタントに作れる人は少ないと思うんです。自分にないものをたくさん持ってるドラマーだなと思っていました。

まさみ(Dr) 実際にこうへいくんと話して、俺がこのバンドにフルコミットするというよりは、こうへいくんのアイデアをアシストしたり、整理するほうが面白いことができそうだなと思いましたね。こうへいくんはやりたいことがはっきりしていたし、こうへいくんみたいにものすごく悩む人とバンドをやったら面白そうだなって。俺はポジティブすぎて悩みがなさすぎるから、歌詞とか書けないので。

――それを踏まえたうえでおふたりのルーツをうかがいたいと思います。こうへいさんが音楽に目覚めたきっかけは小学校でリコーダーを吹いたときとのことで。

こうへい 音が出た瞬間にこれだ!と思いました。姉がピアノを習っていて、自分もやってみたいなと思いつつも人前に出るのが苦手で。それで母の影響でaikoさんや槇原敬之さん、西野カナさんみたいなJ-POPをよく聴いていました。でも僕が中学生のとき、姉がどっぷりバンドにはまり始めるんです。J-POPより音がごちゃごちゃしてるからあんまりバンドの良さがわからなくて、そんな僕に姉が聴かせてくれたのがback numberでした。バンドだけど聴きやすくて、歌詞がすごく刺さったんですよね。

――back numberの歌詞のどんなところが刺さりましたか?

こうへい 心の奥に踏み込んだ歌詞のような気がしました。頭の中でぼんやりとしていた感情がくっきりするような気がしたし、生きていくうえで自分の頭で「これはなぜなんだろう」と考えることが大切なんだなと感銘を受けたんです。そこからバンドを掘り下げるようになって、エレファントカシマシやサンボマスターも好きになって、ギターの音も歪んでいるからこその良さがあることにも気づいたんですよね。

――まさみさんはX JAPANのYOSHIKIさんが憧れのドラマーだそうですが、どんなことがきっかけでドラムを始めたのでしょうか。

まさみ もともとゲームがめちゃくちゃ好きで、小学校4年生のときに親と一緒にゲームセンターに行ったとき太鼓の達人をやったら、初めてなのにめっちゃ叩けたんですよね。そしたら音楽のことを何もわかってない、楽器のガの字も知らない両親が「神童だ!」と勘違いをして(笑)、そんな両親でも知っているドラマーがYOSHIKIさんだったんです。その日以来YOSHIKIさんのドラム映像とかを見せられて「あなたはこうなれる」とどんどん洗脳されていって。

――親御さんの熱心な支えがあって、ドラマーまさみは誕生したと。

まさみ 小5の終わりぐらいに電子ドラムみたいなものを買い与えてくれて、叩いてみたら「俺、意外とできるじゃん」と思って(笑)。小6でバンドを組んで音楽室で発表会を開いたりしましたね。でもそれ以降は表立ってドラムをやる機会はなくて。高校の頃とかはちまちまと演奏動画を撮って、それを身内しか見られないLINEのタイムラインに上げてました。ドラムの演奏動画を撮ったり、それを編集するのが好きだったんですよね。

――「ドラムの演奏動画をかっこよく撮りたい」という気持ちが、結果的にいいドラムを叩きたいという欲求につながっていったんですね。

まさみ 「この曲のドラム動画を撮りたいから練習頑張ろう」みたいな感じでした。高校卒業のタイミングで友人たちから「ドラム動画も外に出しなよ。絶対伸びるよ」と言われて、それまで撮ったものを出してみたらめっちゃ伸びて。それでドラム動画を定期的に出すようになって、それを観たこうへいくんが声を掛けてくれたんだと思います。


――――ロックバンドは誰かを許す存在



――冒頭でこうへいさんは「ずっとバンドをやりたいと思っていた」とおっしゃっていましたが、それだけバンドという活動形態を諦めたくなかったのは、どんな理由があるのでしょう?

こうへい バンドサウンドに固執しているわけではないんですけど、ロックバンドでありたい気持ちが強くて。僕はロックバンドって、誰かを許す存在だと思っているんです。

――“許す”はセカンドバッカーの歌詞にも頻出するワードですよね。

こうへい 人間は許容範囲が広ければ広いほど幸せだと思っているんです。たとえば恋人が誰かとごはんに行くだけで悲しい気持ちになる人もいるし、恋人がトラブルなく無事に家に帰ってくるならどんなことをしてもいいという人もいて。

――後者のほうが恋人にとめどない愛情を注いでいるように感じます。それは“許す”からこそできることでもある。

こうへい だから愛してる人が自分のことをこの世でいちばん愛しているわけではなかったとしても、自分がその人のことを思ったり、その人の幸せを考え続けることはとても深い愛情だと思うんです。あなたの1番ではなく、2番目であってもあなたのことを思い続けたい。

まさみ こうへいくんのこのマインドが、セカンドバッカーというバンド名につながってくるんですよね。“2番目の守り人”というのは「あなたが“好きだよ”と言ってくれるのであれば、僕らがあなたにとって2番目の存在であっても全力であなたを大切に思うよ。それこそが愛なんじゃないか」という意味が込められているんです。

――それがセカンドバッカーが貫きたいロックバンドとしてのアティテュードということですね。

まさみ バンドの立場で言うと、応援してくれる人たちは最近知ってくれた人であっても前々から知ってくれている人であっても、僕らのことがいちばん好きな人であってもなんとなく好きな人であっても、僕らが受け取る愛情は変わらないんですよね。愛情を向けてくれた人には全力で返したいし、どんなことがあっても真っ直ぐにあなたを応援したい。そういう集団がロックバンドなんじゃないか……とこうへいくんは言いたいと思うんですけど。

こうへい その通り! ほんとまさみくんがバンドメンバーで良かった(笑)。

――なかなか恋が実らない人も、こうへいさんから見れば“どんなことがあっても大切な人をまっすぐ愛している人”で、セカンドバッカーの楽曲はそういう人たちへ向けた愛情なのかもしれませんね。

こうへい 「この人にこんなことをしたい」とか、好きな人のことを考えるという愛情を何よりも大事にしたいんですよね。その周りに「手を握る」や「会話する」という行動があって、さらにその周りに言葉や音楽があると思うんです。その中心にある“愛情”をなるべく理解しやすい言葉にしたいと思って歌詞を書いているし、その歌詞の輪郭をはっきりさせるアレンジにしたくて。ファッションやメイクでその人の好みまで伝わってくるのと同じように、言葉だけでは伝わらないものが音のおかげでちゃんと伝わる気がするんですよね。時間を掛けて自分の伝えたいことを歌詞にして、言葉に服を着せてあげるように音をつけています。

まさみ セカンドバッカーで僕の仕事はこうへいくんが作りたいものを作れる環境にすること、こうへいくんの主張を大衆に届けることだと思っているんです。だからこうへいくんの言うことには基本反論はしないですし、提案するときは「こっちのほうが伝えたいことをちゃんと伝えられるんじゃない?」というときですね。

こうへい 自分は明るいことばかりだと生きているという感覚が得られないタイプだし、悲しみを感じていてこそ楽しさは倍増すると思うし、靴も新品より使い込んでぼろぼろになったもののほうが汚いけど美しいなと感じるし、そういうものを歌詞にしていきたいんです。大好きな人と別れて10年間彼女がいなかった人に11年目で彼女ができたら、その10年間も相まってすごく幸せを感じられると思う。そういう時間にちゃんと目を向けたいし、そういうところにあったかさを感じるんですよね。実らない恋をしている人だって、全然間違いじゃないと思うんです。


――――こうへいのソングライティングの礎を築いた3年間



――2020年に初対面を果たし意気投合して、2023年3月からセカンドバッカーの活動がスタートしますが、この3年弱はどんな期間でしたか?

こうへい 書きたい歌詞のイメージはしっかりあったんですけど、いざ書こうとするとそれに見合うものが全然書けなかったんです。「金色の青が輝いて」とか、わけわかんない歌詞ばっか書いてて……。そのときに自分が人として浅はかであることを痛いほど知るんです。それで「なんでこの人は俺にこう言って、こういうことをしてくれたんだろう」と人の気持ちに思いを巡らせたり、「どんなときに自分を許してもいいと思えるんだろう」と自分に向き合うようになりました。やっぱり歌詞は実際に経験していないと書けないんですよね。想像にも限界がある。

――こうへいさんがこうへいさんの理想を表現できる器になるまでに3年弱かかったと。その突破口は何だったのでしょう?

こうへい まさみくんの存在がすごく大きいです。まさみくんは指摘も気遣いもすごくさり気ないんですよ。居酒屋で僕がひとりでメニューを見てたら「そんなんじゃモテないですよ~」って笑いながらみんなで一緒に見られるようにしてくれたり、ドリンクが届いてそのまま飲もうとしたら「こうへいくん、乾杯!」と言ってくれたり。お会計を済ませた後に、お金がない僕を気遣って「歩いて帰りましょうか」と7、8kmくらい一緒に歩いたりして。

まさみ 電車賃をケチって2時間くらい歩いたのに、ふたりともバカだから家の近くのコンビニでアイス買っちゃって、結果的に電車賃より高くついてこうへいくんがめっちゃへこむっていう(笑)。それがすごく面白くて。

こうへい そんなにお腹空いてないのに山盛りのラーメンを食べてすげえ気持ち悪くなって大笑いしたり、買ったケバブを道に落としちゃって、それをふたりで拾って食べて「砂利まみれだ、きったね!」「でもこれはこれでめっちゃうまいわ!」なんて言ったり。普通ならついてないと思ってしまうことも、まさみくんとならすごく楽しいんですよね。自分が女の子だったら絶対好きになってます(笑)。

まさみ 僕はこうへいくんの不憫な姿が好きなだけです(笑)。

こうへい まさみくんが「曲できましたか?」とふらっと家に来て、なかなかできないんだよねと言うと「じゃあまずは腹ごしらえですね。この前超絶うまいペペロンチーノを開発したんですよ」と大量のペペロンチーノを作ってくれて、ふたりでむしゃむしゃ食べて腹いっぱいになってそのまま寝て、起きて「全然曲できてねえじゃん!」って笑って。曲はできていなくても、まさみくんのおかげでいろんな感情が巻き起こってたんですよね。もちろんほかの人からもそういうものはもらっていたけれど、自分の感情と言葉を結び付けてくれたいちばん大きな存在がまさみくんなんです。

まさみ こうへいくんの家が、僕の家と大学の中継地点だったからよく泊まってただけです(笑)。

こうへい (笑)。口ではこう言うんですけど、すごくあったかい人なんですよね。だから僕の中で愛情というものは、恋人でも友達でもペットでもバンドメンバーでも同じだと思っていて。聴く人がいちばん受け取りやすいのは恋愛ソングだと思うので、自分の中に巻き起こった愛情を恋愛に置き換えて曲を書くことが多いんです。


――――自分の心を救うことで、聴いてくれる人の感情の輪郭を作る



――2024年は「ふたりぐらし」や「両思い」のように、好きな人と結ばれて幸せな感情を書いた曲も多いですが、今回リリースされる初の全国流通盤であるEP『言えなかったことばっかりだった。』は後悔の念を感じる楽曲が多い印象がありました。

こうへい 去年の秋、それこそ初ワンマンの直前に彼女と別れたんですよね……。

まさみ 初ワンマンのMCでこうへいくんがいきなり「実は昨日彼女と別れました」と言い出して、俺まったく知らなくてめっちゃびっくりして(笑)。

こうへい 「こういう曲を作ろう」と思って作ることは基本的にあんまりないんですよね。そのときの感情のままに歌詞を書いて、それを微調整したものが曲になっていることが多くて。このEPの曲もほとんどそうです。いろんなものがなくなっちゃって「もっとこうしとけばよかったな」という後悔ばかりが募っちゃって。「犬とバカ猫」はそのなかで感じた「愛するということはこういうことなんだな」というものを歌詞に入れています。自分と同じような後悔をしてる人の隣に座って「俺もあなたと同じだわ」と言うことで、自分の心を救いながら聴いてくれる人のもやもやした感情の輪郭を作れればいいなって。

――「犬とバカ猫」は言葉のリズムが軽快で、セカンドバッカーの新機軸なのではないかと思いました。軽快でエッジが効いているドラムと、ロマンチックでメロディアスなベースも耳を引きます。

まさみ アレンジは基本的にこうへいくんが全部打ち込みで作ってきて、そこをドラマーやサポートベースの優月くんの視点から調整するというかたちで作ってますね。「犬とバカ猫」のドラムは僕が作りました(笑)。

こうへい 自分ではばっちりだと思っているデモをメンバーに聴いてもらうので、指摘されたときはちょっと不機嫌になったりもするんですけど(笑)、言われた案を反映させてみると、ふたりともさらに曲を良くするための提案をしてくれているなと実感するんですよね。それがすごく楽しいし、素敵な時間だなと思います。

――EPには「告白」や「片思い」といった初々しい恋愛が描かれている曲もあります。現在進行形で同じような経験をしている若い人たちのお守りになりそうですね。

こうへい 若さを抱えている人と一緒に頑張りたいという気持ちが強いんです。相手を許せなかったり、もっとこうすれば良かったのにという後悔、自分の浅はかな部分や若さならではの勢いをどうやって歌詞に入れようかな……と考えることが結構あって。やっぱりいま自分が書いている若さって、30歳や40歳ぐらいになって書けるかというと、難しい気がしていて。だったらいま書いたほうが生々しいものを残せる気がするんですよね。

――若さを際立たせた歌詞が多い一方で、若さが有限であることを自覚していたり、遠い未来を見据えたフレーズが散見するのも、こうへいさんの書く歌詞の特徴ではないでしょうか。

こうへい 若さってすごくキラキラしているし、素敵だと思うんです。でもそればっかり追い求めていると、30歳ぐらいになったときに道に迷ったり急に崖から落ちちゃうんじゃないか……と思っちゃってるんです。たぶん僕がビビりなだけなんですけど(笑)。若いうちは許せないことがたくさんあって、だから少しずついろんなことを許せるようになれたら崖を回避できるかもしれないなって。「嵐の夜に」の《ビールの苦さが美味しいのは/慣れただけなのかな/同じように歳を取ったら/お互いのドジを笑えるかな》という歌詞も、そういうことを歌っているんです。

――許容することで幸せが増えていく。冒頭の話につながってきますね。

こうへい ビールとかコーヒーも飲み慣れてくると美味しく感じたり、このおつまみと一緒に飲むともっと美味しい!という発見があったりするんですよね。夜ごはんの支度が終わってさあ食べようというときにお米を炊き忘れちゃったことに気づいたときとかも、不機嫌になるよりは笑えたりしたほうが楽しいというか。そういうことを伝えたいんですよね。みんなに笑っていてほしいんです。


――――できないなりに頑張り続けたい


――こうへいさんの伝えたい思いを曲にしたためた結果、今作には様々な曲調が揃い、ラストには初ワンマンの冒頭で披露した「夜露死苦」も収録されています。オールディーズなテイストのロックンロールナンバーで、これも変化球ですね。

こうへい 自分の感情に素直に曲を作ると、どうしても悲しいほうに行っちゃうんです。性格も明るいか暗いかで言ったら絶対暗いけど、そんな僕にも明るい部分はあるので、そういうところを曲にしたくて作ったのが「夜露死苦」ですね。それで懐かしい感じのロックンロールを作ってみました。

まさみ こうへいくんからデモを聴かせてもらったとき、面白いなと思いました。こういうロックンロールは全然ルーツになかったんですけど、俺も明るい曲はめっちゃ好きなんで楽しんで叩けましたね。

――新しい面も見せられつつ、今までのセカンドバッカーが大切にしてきたことも提示できたEPになったのではないかと思います。8月30日からスタートするリリースツアーは全国9ヶ所を回りファイナルを恵比寿LIQUIDROOMで迎える史上最大規模での開催ですが、どんなツアーにしたいですか?

こうへい 今まで自分が積み重ねてきたものをそのまんま出せたらいいなと思っていますね。歩くとか息をするのと同じくらい自然に歌うことで、気持ちがそのまま届いて、セカンドバッカーのあったかさやまっすぐさが伝わったらいいなってすごく思います。

まさみ 僕はそういうこうへいくんをしっかりサポートできたらと思いますね。こうへいくんは言葉にするのが下手すぎる部分があるので(笑)、こうへいくんから出てきた天然素材のものをみんなが触れられるものに固めていけたらいいなと思っています。最近ようやくそれができてきたなと感じるので、このツアーでそれをより仕上げていきたいですね。またライブに来たいと思ってもらえるツアーにしたいです。

――純粋すぎるこうへいさんと、それを支えて導くまさみさん。こうへいさんの伝えたいことを曲にするうえでまさみさんの存在は必要不可欠ですし、ロックバンドをやるにあたっていいメンバーが見つかって本当に良かったですね。

こうへい 本当にそうです。僕がいちばんよく言われる言葉が「よくこれでここまで生きてこれたね」なので……(笑)。

まさみ 僕もその台詞を1000回ぐらいこうへいくんに言ったことがある(笑)。

――(笑)。こうへいさんがいろんな人に許されてきたからこそ、いろんな人を「許したい」と思うようになったのかもしれないですね。

こうへい 最近、自分は許されすぎだなと思うんですよね……甘やかされすぎている(笑)。ほんと誰かと連絡を取るのとかすごく苦手で、まさみくんに「語尾に絵文字つけるだけでも心証が変わりますよ」ってアドバイスもらったりして、最近気を付けてます(笑)。だからいろんなことをもうちょい頑張らないと。できないって諦めるんじゃなくて、できないなりに頑張り続けたいです。

取材・文 沖さやこ

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